コラム 「罪と罰 ポルフィーリ」

「あなたは老婆を殺しただけだから、まだよかった。

もし別な理論でも考えだしていたら、

下手をすると、まだまだ千万倍も醜悪なことをしでかしていたかもしれません!

これでも、神に感謝しなきゃいけないのかもしれませんよ」

 

金貸し老婆の殺人事件を調査していた予審判事ポルフィーリは、

彼が真犯人と確信しているラスコーリニコフにこう語り、自首を促す。

私は、『罪と罰』を三度目に読み返してみて、ようやく彼の

「千万倍も醜悪なこと」

の意味することが、はっと、理解できた。

 

ラスコーリニコフが老婆を殺したのは、正義のヒーローになるためだった。

嫌われ者の強欲な老婆から財産を奪って、貧しい人に再分配する。

この殺人は、英雄にだけ許される、全人類の救済の正義の鉄槌である。

 

ポルフィーリのいう「千万倍も醜悪なこと」とは、

ズバリ言って

正義の名のもとに、ラスコーリニコフがたくさんの人間を殺すことだ。

 

かつて、オウム真理教事件というのがあった。

オウム真理教の信者たちが、教団の指示にしたがって

地下鉄にサリンを撒いて無差別殺人を行った事件である。

 

狂信的な信者たちが、全人類を救済するために犯したテロだった。

 

極めて独善的な動機は、一般人の理解を超えていた。

「全人類の救済のために無差別テロが許される」

この考えは、力のない人間が正義を実現しようとするとき

やがてたどりつく「けもの道」である。

 

けもの道とは、人間をやがて断崖絶壁につれていく危険な道だ。

 

正義が、人を狂わせ「千万倍も醜悪なこと」をする実例は

戦争やテロの歴史を紐解けば、たくさん挙がる。

 

全人類を救済したいという切実な思いが、皮肉なことに

極めて醜悪なエゴにたどりつくケースがあることを

ポルフィーリは知っていたのだ。

 

「私が何者かって? もう終わってしまった人間。それだけですよ」

 

ラスコーリニコフの最大の理解者だった彼は、こういった。

 

彼もかつて正義に悩んだのかもしれない。

 

だから前途あるこの若者に、神のもとでの更正を勧めたのだ。

 

(終わり)

 

 

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