コラム 『罪と罰 プリヘーリア』

「プリヘーリア」

『(お母さんは)よいことだけを当てにしている、そして事の裏側をうすうす感じても、
そうなるまえに自分に本当の言葉を聞かせようとは決してしない。
そんなことは考えただけで気が滅入ってしまうのだ。』

ラスコーリニコフは、母プリへ―リヤの性格の弱さを見抜いていた。

その通り、母は、ルージンに嫁ぐドーニャが不幸になることはうすうす気がついていた。
また、売春婦ソーニャが、息子の大切な人であるといことも認めたくないが、
直感的に気がついていた。

しかし、彼女は、すべてを善意で解釈しようとした。

愛する息子が幸せになるために。

見たい現実しか見ない、信じたいことしか信じないという態度は
激しい社会の変化に耐えるために、彼女があみだした唯一防御手段だった。

一方、息子のラスコーリニコフは世の中が善意で回っていないと
都会の貧困生活で、切実に自覚しはじめた。

誇り高い彼にとって自分の無力さは歯がゆくてやりきれなかった。

『一つの殺人は百の善行で償われる』

非情な社会から、全人類を救済するために彼は独自な思想を造り上げ、
ついには恐るべき凶行に手を染めてしまった。

プリへ―リアは、息子の書いた
『いつか全世界を救う非凡人=英雄が何十億人の中から生まれて、
彼が、全人類を救うために、法律を踏み越えていく権利を持つだろう』

という論文を何度も声に出して読み、誇りに思った。

そして、息子が病気の友人やその家族を献身的に介護したことや
火事場から二人の子どもを救出したことを誰よりも誇りに思った。

自分の息子が、何十億人の一人の非凡人であることを信じていた。

『息子はいつか国家的な人物になるであろう』

しかし、過酷な現実を自分の願いに近づける無理を重ねるたびに
彼女の精神は乱れていった。

ソーニャがシベリアで息子を支えていることも
認めたくはないが、母は知っていたのかもしれない。

だから、息子がどこにいるのか敢えて訊かなかったのだ。

母に残された役割は、息子の帰りをひたすら待つことだけだった。

(終わり)

 

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